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日本画のハードコア


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日本画のハードコア。1966年、美術評論家の針生一郎が「これが日本画だ!」展を企てたように、私もこれが日本画のハードコア=核心だと言い切ろう。作られた伝統を隠れ蓑に、素材と様式に盲信した絵画のことではない。そもそも、国名を冠したこの奇妙な絵画の一ジャンルは、日本が開国して西洋絵画の技法が導入された明治時代、西洋画に対して名づけられた。廃藩置県を行った明治政府が地方統治を一元化したように、日本画はそれまでの国内の諸流派をいわば統合するかのようにして、同時に西洋絵画の技法も取り入れることで、西洋の文脈にのっとった絵画を作り上げようとしたのである(たとえば今も日本の現代美術がそうした手法をとるように)。江戸幕府が倒れるまで日本最大の絵画工房を築き上げた狩野派に学んだ狩野芳崖が、フェノロサとの研究から西洋絵画の空間表現や色彩を作品に取り入れたことはよく知られている。その後の岡倉天心や横山大観らが試みた明確な輪郭線を持たない描法・朦朧体は、フランスの外光派から着想を得て生まれたものだった。「これが日本画だ!」展出品作家であり、戦後渡米した中村正義が強い影響を受け自作に応用したのは当時シーンを席巻していたポップアートである。これらのことは、日本画が伝統的な様式・素材の不変の継承ではないことを意味している。彼らの作品のテーマ自体(宗教画、歴史画、肖像画、風景画など)は必ずしも目新しいものではなかったが、そうして日本画は、日本だけではなく世界各地の美術シーンからも貪欲に学ぶことで同時代に対して新たな成果を挙げていった。したがって日本画のハードコアは、不変の伝統にではなく、美術史上の営みを咀嚼しつつ同時代に向けられたラディカルな創造性にこそ発見されなければならない。

明治維新から約150年、アジア・太平洋戦争敗戦から70年が経つ今日、現在の私たちが立つのもその延長線上である。すなわち日本画のハードコアの担い手は、ドメスティックでありながらも自閉的ではなく、伝統主義者というよりはアヴァンギャルドであり、近代に作られた日本画の制度とその歴史的過程でリミックスされ続けている主題と技法に対する批評的まなざしを持つ。美学校主催「ギグメンタ2015」の一環で開催する本展が狙うのは、制作テーマも世代も異なるものの大学で日本画を専攻した6名の作家によって、日本画の超克や現代美術化を狙うのではなく、そして多様性の名の下に日本画の定義不可能性を語るのではなく、これこそが日本画のハードコアだと断言してみせることで、来るべき日本画を確信犯的に誘発することにほかならない。

(小金沢智/本展企画者、日本近現代美術史)

日程:2015年4月7日(火)〜12日(日)
時間:11:00〜20:00(最終日は18:00まで)
出展作家:岩田壮平、蝦原由紀(加藤由紀)、大浦雅臣、田中武、中村ケンゴ、間島秀徳
会場:The Artcomplex Center of Tokyo ACT5(東京都新宿区大京町12-9)地図はこちら
入場料:無料
企画:小金沢智
協力:The Artcomplex Center of Tokyo
特設サイト:http://hardcore-nihonga.weebly.com/


【イベント情報】
・オープニングパーティー
2015年4月7日(火)18:00〜20:00

・トーク
タイトル:対談「日本画と洋画のミームの摘発」
日時:2015年4月11日(土)14時〜16時
出演:梅津庸一(美術家)、小金沢智(本展企画者)
入場無料






岩田壮平 IWATA Sohey
日本画家。1978年、愛知県生まれ。1981年、華道池坊入門(95年まで)。2000年、金沢美術工芸大学絵画専攻日本画卒業。2002年、金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科絵画専攻日本画修了。近年の展覧会に、個展「origin」(日本橋髙島屋美術画廊・他各地巡回、2014年)、グループ展「双の会」(春風洞画廊、2014年)など多数。現在、日展会友、武蔵野美術大学非常勤講師。
IwataSohey.jpg《雪月花時最憶君〜花泥棒》 2014



蝦原由紀(加藤由紀) EBIHARA Yuki(KATO Yuki)
EbiharaYuki()KatoYuki.jpg《ヤヌス》 2014画家。1987年、愛知県生まれ。2010年、筑波大学芸術専門学群卒業。2012年、筑波大学大学院人間総合科学研究科博士前期課程芸術専攻芸術学領域群日本画領域修了。近年の展覧会に、公募展「損保ジャパン美術賞展 FACE2014」(損保ジャパン東郷青児美術館、2014年)、グループ展「聖夜の女子会」(村越画廊、2014年)、公募展「シェル美術賞展2014」(国立新美術館、2014年)など多数。http://katoyuki.obihimo.com/




大浦雅臣 OURA Masaomi
OuraMasaomi.jpg《創世機》 2010日本画家。1977年、東京都生まれ。2003年、武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業。2005年、武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻日本画コース修了。近年の展覧会に、個展「もしもし日本画」(もみの木画廊、2012年)、個展「楽園」(成城さくらさくギャラリー、2014年)、グループ展「ニホンノココロ企画 恋愛絵画展」(ギャラリー・ショアウッド、2013年)など多数。http://oura.jimdo.com/




田中武 TANAKA Takeshi
TanakaTakeshi.jpg《印相(十六恥漢図シリーズ)》 2010アーティスト。1982年、福岡県生まれ。2010年、九州産業大学博士後期課程芸術研究科造形表現専攻(日本画)修了。近年の展覧会に、「夜 咄」(imura art gallery Kyoto、2014年)、グループ展「寺田コレクション〜自然と生命への讃歌〜」(茨城天心記念五浦美術館、2014年)、グループ展「タカシマヤ幻想博物館展」(日本橋髙島屋・他各地巡回、2014年)など多数。現在、九州産業大学芸術学部日本画コース非常勤講師。http://takeshi-tanaka.net/






中村ケンゴ NAKAMURA Kengo
NakamuraKengo.JPG《自分以外》 2014美術家。1969年、大阪府生まれ。1993年、多摩美術大学大学絵画科日本画専攻卒業。1995年、多摩美術大学大学院美術研究科修士課程修了。近年の展覧会に、個展「心文一致」(Showcase MEGUMI OGITA GALLERY、2014年)、個展「モダン・ジャパニーズ・ジャパニーズ=スタイル・ペインティング 1994 - 2014」(掛川市二の丸美術館、2015年)、グループ展「手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから」(東京都現代美術館、2013年)など多数。http://www.nakamurakengo.com/




間島秀徳 MAJIMA Hidenori
MajimaHidenori.JPG「間島秀徳展 recent works」展示風景 2013(撮影:飯村昭彦)日本画家。1960年、茨城県生まれ。1984年、東京芸術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。1986年、東京芸術大学大学院美術研究科修士課程修了。2000年〜2001年、文化庁在外研修員としてフィラデルフィア(ペンシルバニア大学)、ニューヨークに滞在。近年の展覧会に、個展「Kinesis(seamount) 間島秀徳展」(Steps Gallery、2014年)、グループ展「作家とアトリエ展—作品を生み出す身体、創造の場—」(茨城県近代美術館、2014年)など多数。




 


The Artcomplex Center of Tokyo
東京都新宿区 大京町12-9

【アクセス】
・東京メトロ丸の内線「四谷三丁目」駅 出口1より徒歩7分
・JR総武線「信濃町」駅より徒歩7分